INTERVIEW

未来へ向けて、国際人となる多彩な取り組み

株式会社ALTA

代表取締役 統括本部長 上田満裕子

「すべての子どもに満ち足りた時間を提供する」をコンセプトに、1都2県で30の認可保育所と小規模保育事業所を運営している株式会社ALTA。海外での指導経験を持つアート講師を招いての「アート・プログラム」や砂場以外の遊具をあえておかない園庭。そして、保護者に対する全園での睡眠時間調査に基づいた早寝・早起き・朝ごはん運動など独特の保育所運営を行っている。将来、国際的に活躍できる子どもたちの育成を目指す上田満裕子本部長に話を聞いた。

フラットな園庭と独自のアート・プログラム

当社が運営する認可保育園の特徴は、大きく二つあります。一つ目は園庭に遊具がなく、フラットであること。子どもたちがダイナミックかつ自由に身体を使って遊べる広々とした園庭を作ること、そのことで子どもたちはたくさん運動して、しっかりと給食を食べ、ぐっすりと午睡できる。このようなサイクルを作るきっかけになっています。

そして、もう一つの特徴が昨年度4月から始めた「アート・プログラム」です。月に一度認可保育所の主活動の時間に力を入れて展開しているもので、シンガポールでアート講師をしている私の高校時代の友人を招き、歳児別(0-1歳・2-3歳・4-5歳)に実施しています。現在は三つのクラスで12カ月分のレパートリーを計36プログラム用意していますが、本社スタッフと講師で協働しながら、いずれは100プログラムまで拡張したいと考えています。現在、「アート・プログラム」は全ての園で実施できるよう、試行錯誤を続けています。

自分の良さを活かせる保育の業界へ

私自身、保育に携わりたいと考えたのは、社会人になってからでした。大学のピアノ科を卒業し、大手の通信事業者に勤めながらボランティアで高齢者施設などのピアノ演奏をしてきましたが、少子化高齢社会での幼児教育の重要性を知り、教育を通じて世の中を変えることが出来る幼稚園教諭または保育士になりたいと考えるようになりました。社会人を経て、通い直した保育士養成機関で当社の代表である主人と出会い、これまでの想いを具体化し、保育を通じて地域に貢献できると考え、開園を決めました。

当初は私自身ピアノが専門でしたのでリトミックや音楽養育を、という構想もありました。ですが、音楽だとどうしても優劣がついてしまう。「この子は楽器が上手だけど、歌は下手だよね」など、そういったことが少なからず子ども同士でも出てきてしまうことがあるのかなと導入時期を検討していたところ、今アート講師をお願いしている友人から「アートには正解がない」ということを聞き、芸術活動はそれぞれが楽しめるもののはず。個性を認めて、それを存分に発揮できる機会が作れるのではないか。一人ひとりを肯定して褒めることができるのでは、と「アート・プログラム」の導入を決めました。子どもたちが自由な発想で五感を刺激しながらアートに取り組むことで、一つのことに集中する力も養える。主体性を持って感性を研ぎ澄ますことがより良い成長につながると考えています。

子どもたちの興味と主体性を引き出すアート・プログラム

「アート・プログラム」では、どうやったら子どもたちの興味を引き出せるか、笑顔を見られるか、といったことを目標に毎月、歳児ごとに取り組む内容を変えながら展開しています。現場の社員はもちろん、本社のスタッフもサポートしながら取り組んでいますが、私が一番子どもたちの反応を毎回とても楽しみにしています。

今年の5月は「子どもの日」のこいのぼりにちなんで“魚拓”を行いました。園児が自由に選んだ色とりどりの絵の具を手で生魚に塗り、半紙に押すという計画でしたが、当初、子どもたちは魚を怖がって触れないかもしれないと思い、筆も用意していました。 ですが、魚を見るなり指で触り、色を塗るなど子どもたち一人ひとりの解釈で取り組み、他児の勇気に触発されて大盛り上がりになるなど無用の心配でした。このような環境設定は保育園ならではですので、保護者の方にも大変喜んでいただいています。立体のものだと作成後に自宅に持って帰っていただきますが、そうでない場合は園の玄関に掲示するので、お迎え時などはその掲示物の前に渋滞ができることも。子どもたちとの会話も弾んでいて、子どもの話をしっかりと聞いてあげられる時間を作れているのかな、とも感じています。

各家庭に寄り添った「睡眠教育」

保護者の方と協力して行っている「睡眠教育」も、 当社が注力している教育プログラムです。世界的に見ても日本人は短睡眠傾向にあると言われています。共働きの多い今の時代、多忙を極める女性は特に睡眠不足を感じている方も少なくないのではないでしょうか。保護者の方が短睡眠だと、一緒に生活しているお子さんも短睡眠となり、寝不足で十分な運動ができず、食欲も減退、という負のループに陥ることが報告されています。子どもたちの健全な発育を守るためにも保護者の方への「睡眠教育」は大事なことだと感じています。

具体的には、全園で保護者に対する睡眠時間調査を実施し、統計的なフィードバックとともに、早寝・早起きに効果的と思われる「ナイトルーティンの共有」を行う取り組みを展開しています。また、当社では、保護者の方との連絡帳をすべてアプリ化していますので、そこに睡眠時間や朝食の喫食状況なども入力していただいています。元気がない、食欲がないなど園でのお子さまの様子とあわせて園と家庭でダブルチェックすることで、各家庭に寄り添った保育を可能にしています。

子どもたちに満ち足りた時間を提供するために

開園する際、コンセプトを「すべての子どもに満ち足りた時間を提供する」と決めました。登園から午前中の主活動、給食の時間などそれぞれの時間帯で子どもたちが満足して、充実した気持ちになれるようスタッフ一人ひとりが理念を持って子どもたちと関われるように。この理念は研修などを通して、スタッフにも随時共有しています。保護者の方々の大切な宝物であるお子さまを預けていただいていますので、登園した姿であるがままの自分が愛されていると感じながら元気に降園する。それが一番重要なこと。どんなにより良い保育プログラムを提供したとしても、自信を失くしてしまった、怪我をしてしまった、具合が悪くなったのに速やかに連絡がなかった、というようなことがあればマイナスでしかないわけです。そのため、降園時には必ずその日のいきいきとした様子を丁寧に伝えるように、ということも社員には常日頃指導しています。

設立当初は、数人だった従業員も今では350名以上とかなりの大所帯になりました。保育関係は女性が多い職場ですので、派閥などの無く、コンセプトを持ってストレスなく働いてもらいたいと考えています。今の社員は、保育所で過ごす児童が、すべての時間帯において満ち足りた気持ちで居続けること「Being ALTA」を目指し、利用者目線で社員が工夫を重ねる保育所を作るという私たちの信念に賛同し、集まってくれた者ばかりです。

国際的に活躍する人材の基盤作りを

現代社会は、子どもたちが受け取る素直な感覚を軽視してしまう教育体系だと感じます。たしかに主観を排除し客観的に対象を分析することが社会経済の本質であり、大人になればそのように物事を捉えざるを得ないこともあるでしょう。しかし子どもたちの感覚が純粋で豊かな時期だからこそ、様々な感性に訴える教育が必要です。そのためにも一人ひとりの感覚と主体性を尊重し、心の冒険を与え、遊びを与え、無垢な脳に心地良い刺激を与える取り組みを心がけてきました。STEAM教育で言われている芸術的視点は、社会や人生を捉える視点として国際的にも非常に重要だと言われています。

将来的に、当社の園を卒園した子どもたちには世界に羽ばたける国際人になってほしいと願っています。人口減少社会においては将来子どもたちが少数精鋭で社会を支える必要があり、手厚い教育が必要です。幸せに生きていくには自己肯定感・自己有能感(自信)他者への信頼感(愛着)が重要と言われていますが、そのために生活習慣が最も重要であることを理解している人は意外に少ないのが現実です。子どもたちの運動量を確保し、食事や睡眠もしっかりとる、という習慣を幼少期に確立し、子ども時代を充実して過ごすこと。当社ではこれらを実現できるよう国際的に見て明らかな短睡眠傾向の解消から、海外で活躍する講師を招いての「アート・プログラム」の実施までグローバルな視点での基盤作りを今後も続けていきたいと考えています。それこそ20年後、30年後に「卒園した何々さんじゃない?」とニュースで名前を見るくらい国際的に活躍してくれる子どもたちが増えるように。日本人に必要な自信や教養を地域的な文化基盤とともに、アイデンティティーとして子どもたちに提供し、その地域における保護者の子育てをより印象深いもとして、かけがえのない思い出とともに支えていく立場でありたいですね。

株式会社ALTA

代表取締役 統括本部長

1983年生まれ。日本大学芸術学部ピアノ科でクラシック演奏を学ぶ。その後、USENに勤務。岩波にて不動産業の秘書を務める。学び直しで入学した保育士養成機関で資格を取得し、現在に至る。 「Being ALTA」をコンセプトに、子どもたちが園で満ち足りた時間を過ごせるよう幼児の主体性と自己肯定感を育む教育メソッドを開発し展開している。