INTERVIEW

元・自衛官による、自衛官のための会社。

株式会社 MILITARY WORKS

代表取締役 木村裕一

株式会社MILITARY WORKSは、元・自衛官向けの有料職業紹介事業を営む会社だ。代表取締役の木村裕一さんは約25年の自衛隊勤務を経験したが、自衛官が退官した後の働き口があまりにも限られている現実に愕然としたことから、元・自衛官達のための会社を自ら立ち上げたという。その唯一無二の事業内容と今後の狙いを詳しく聞いた。

元・自衛官が活躍できる場を提供したい

当社は自衛官のセカンドキャリアを創造することを目的として設立された会社です。まずはカジュアル面談という形で、自衛官の方々が抱えているお悩みや不安を私が直接ヒアリングし、理想的なキャリアを築いて頂けるようサポートしています。職業紹介業と並んで当社の主軸となっているのが、軽貨物配送業です。もともと「自衛官を集めて何かビジネスをしたい」というコンセプトはあったのですが、何から手を付けたらいいものかと周りの経営者の方々に相談したところ、コロナ禍でニーズが高まっていた配送業を勧められたことがきっかけでした。さらにその配送を電気自動車で行えば、万が一の災害時にも皆さんのお役に立てるのではないかと思ったのです。今の時代、災害が起きたときに皆さんが真っ先に心配にされるのは、携帯のバッテリーが切れて情報が遮断されてしまうことでしょう。そこで電気自動車があれば、電源をバッテリー代わりにすることで皆さんの充電ステーションとして活かすことができます。現在、配送は電気自動車とガソリン車の両方を使用していますが、今後は電気自動車100%を目指していくことが目標の1つです。

自衛官達のキャリアに光を

私が自衛隊を辞めたいと考えたきっかけは、東日本大震災でした。思うような支援がまったくできず、もっと多くの人を助けられたのではないかという強い憤りから「退官」という文字が脳裏をよぎるようになっていったのです。また、労働環境に疑問を感じることも多々ありました。一方で湧き起こったのは「自分はどんな職に就けるのだろう」という不安感です。そこから、自衛官が途中退官した場合、あるいは定年を迎えた場合の就職先の選択肢があまりにも少ないことに気づき始めました。候補として挙げられるのは、警備関係や幼稚園バスの運転手、それから大学の守衛・用務員くらいのものです。選択肢が少ないのは言わずもがなですが、平均収入も非常に低いものでした。「曲がりになりにも日本のために尽くしてきた自衛官の働き口が、なぜこうも限られているのか」と愕然としたことを覚えています。しかし私と同じように「辞めたあと何をすればいいのか」と悩む自衛官はきっとたくさんいるとも感じました。ならば、そんな自衛官達の相談に乗り、何か皆で一緒に事を起こせたらと考えたことが起業を考えたきっかけです。志を共にできる自衛隊出身者が集まれば、東日本大震災の無念をバネにした災害活動がいつかできるかもしれないとも思いました。

軍隊気質を払拭するサポート

自衛官はそもそも「人の役に立ちたい」という貢献意識の高い方が多く、なおかつ入隊してから半年間はしっかりと教育を受けるので、皆さん規律正しく、品位があり、言われたことは時間内に必ず達成しようとする責任感の強さが特徴です。しかし一方で、自衛隊で染みついた慣習が民間企業では裏目に出てしまうこともあります。たとえば自衛官は、上から指示を受けたことしかしません。そして、任務が終わっても「次はどうしましょう」といったことは伺いません。軍隊において”余計なこと”をするのはご法度だからです。すると、どうでしょう。世間的には”臨機応変に動けない指示待ち人間”になってしまうのです。私自身、自衛隊出身の社員達をまとめあげる中で「些細なことでも問題が起こるとすぐ上に指示を仰いでくる」「無茶な仕事量を1人で完璧にこなそうとしてキャパオーバーになる」といった問題点を痛感しています。ただ元・自衛官の私だからこそ理解もできるものの、それでは到底やっていけないのが一般的な仕事です。ですから、民間企業にも問題なくフィットできるレベルの人材になるまで再教育することが当社の最も注力すべきことだと考えています。そうすれば、ゆくゆくは外部の企業に就職してもらったり、あるいは当社の管理職に登用したりと、当人のキャリアの可能性も広げられるでしょう。幸い、大多数の民間企業は「元・自衛官ならしっかりとやってくれるだろう」と信頼を寄せてくださるのですから、その期待にお応えできるような人材をどんどんと輩出していきたいものです。

「キャリアは人の数だけある」が大前提

キャリア相談を希望する自衛官の数は予想以上に多いものでした。一時期は月に50人の予約が入ることもあり、まだ3年目の会社であるにもかかわらず、面談の人数は300人を超えていると思います。しかしキャリアに悩む自衛官が非常に多い一方で、「辞めたらこういう風になりたい」と退官後のイメージを具体的に描けている人はほぼいません。そこで私が危機感を持ったのは「自衛隊よりも民間の仕事の方が楽だろう」という誤解がうっすらと蔓延していることでした。意外に思われるかもしれませんが、自衛隊の仕事は民間よりも楽な面が多々あります。基本的には指示通りに動ければ問題ありませんし、ノルマもありません。よって、弊社へ入社しても、2か月もすると「しんどい」と言って辞めてしまう人達が多く、「自分のやり方は自衛官達の幸せにつながっているのだろうか」と悩む時期もありました。そこで意識するようになったのは「むやみに退官を勧めない」ということです。今では、退官後の具体的な希望がないのなら、まずはそのまま自衛官として働きながら投資をするようにとアドバイスしています。そして定年まで勤めるか、ある一定のラインまで来たときに改めて考え直すのも一手でしょう。いずれにせよ、自衛官を辞めるということは重大な決心です。今後のキャリアも含め、皆さんに幸せになってもらうためには、その人に合ったキャリア形成を冷静に提示していくことが重要だと感じています。それは自衛官の立場も、民間の環境も知っている私だからこそできることだと思うのです。

国内外から元・自衛官が求められる未来へ

今後は、皆さんへ斡旋できる働き口を増やしていくことがまずメインの課題です。その点については「元・自衛隊だからこそできる仕事」のご要望を、経営者の方々からさまざまに頂いています。たとえば「軍隊的な緊張感のある社員研修をしてほしい」。今は少し厳しくあたるとパワハラと言われかねない時代ですから、元自衛官からじきじきに気合を入れてもらいたいという経営者の方は一定数いらっしゃいます。また、「自衛隊流の厳しいルール下で元・自衛官と本格的に戦えるサバゲーをしたい」というユニークなニーズもありますね。実現できれば、自衛官達の就職先としても非常に魅力的な場になるかと思います。それから清掃業も、当社の主軸事業の1つとして検討しているものです。自衛官は有事の際、必要なもの瞬時に取り出す必要がありますから、訓練ではまず掃除と整理整頓を徹底的に叩き込まれます。よって、こちらも元自衛官達にとって適職ではないかと見込んでいます。また現在は関東を中心に事業を運営している当社ですが、自衛官の数が多い九州や東北、そしてゆくゆくは全国の自衛官達をくまなく受け入れられるよう、配送業の拠点を各駐屯地の近くに拡大できるよう努めていきたいと思います。いずれの事業にせよ、日本人の仕事のクオリティの高さと元・自衛官ならではの品位の高さを掛け合わせれば、海外進出も夢ではないはずです。いつか国内外から「日本の自衛官達はすごい」と認知され、元・自衛官達の人材ニーズがあらゆる方面で高まるといいなと思っています。それも「ただ自衛隊にいたから優秀なのではなくて、MILITARY WORKSを経由してきた元・自衛官達が特別なんだ」という風にブランディングしていけるといいですね。そんな未来を考えると非常にワクワクします。

自衛隊の環境改善に貢献したい

元・自衛官だけでなく、現役自衛官の”今”を変えていくことも当社の課題の1つだと私は捉えています。自衛官は毎年約1万人が入隊し、同じ数だけ退官するとされていますが、その理由として圧倒的に多いのが、労働環境の厳しさです。自衛隊は労働基準法が適用されませんから、一般的に見れば首を傾げたくなるようなルールが多くあるのです。この部分に関して、私達のようなOBが「これはおかしいんじゃないか」と声を上げていくべきだと考えています。実際にSNSでの発信には反響も大きく、国会議員の方々からも詳しく話を聞かせてほしいとコンタクトを頂いています。それは裏を返せば、昨今の自衛隊入隊者数の減少や、退官者数の多さが懸念されているということでしょう。自衛隊は国を守る非常に重要な仕事です。ならば、入隊した人達が辞めないような配慮をしていくこともまた重要なのではないでしょうか。我々の声が反映され、古い慣習が一掃されれば、自衛隊の環境は確実に良くなるでしょうし、当社の知名度も高まるでしょう。そうすれば当社に関わる元・自衛官達もさらに希望と誇りをもって新たなキャリアに打ち込んでくれるのではないか、そんな風に期待しています。

株式会社 MILITARY WORKS

代表取締役

伏見工業高校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。千葉県の習志野駐屯地第1空挺団に配属され、主にパラシュート整備に従事。その後松戸市に異動し、トータル約25年の自衛隊勤務を経て2020年に退官。2021年に株式会社MILITARY WORKSを設立し、代表取締役に就任。