INTERVIEW

理想の空間を具現化するクリエイター集団

株式会社リオエンターテイメントデザイン

代表取締役 竹林良太

展示会を中心としたブースやイベントの企画・デザイン・運営等を手掛ける株式会社リオエンターテイメントデザイン。代表取締役の竹林良太さんは映画監督を夢見て映像製作業界へ飛び込んだが、紆余曲折を経て空間デザインの世界へ。「クライアントの理想に100%近づくためには、私達は120%の努力をする必要がある」と語る氏の仕事観、そしてデザイン業界の”今”を追った。

理想の空間を具現化するクリエイター集団

当社の大きな特徴が、スタッフ全員がクリエイターという点です。クライアントに営業をかけるのではなく、お問い合わせに対応するというスタンスを取っているため、営業社員はいません。社内は「クリエイティブチーム」と「プランニングチーム」の2つに分かれており、前者は主にビッグサイトや幕張メッセ等で行われる展示会の企業ブースや店舗の設計・デザインを、後者は商業施設のイベントの企画および運営等を手掛けています。両部署がそれぞれの強みを活かすことで、年間を通してバランスよく仕事をさせて頂いている現状です。

また、メインとなる担当デザイナーがクライアントとの打ち合わせから施工、現場管理まで一連の流れを担うことで、クライアントの理想にしっかりと寄り添い、よりよい空間を実現できるよう注力してきました。分業すれば効率化には繋がるのかもしれませんが、やはり担当が終始クライアントに伴走し、共にプロジェクトを育てていく方が大きな感動が生まれるのではないでしょうか。

クライアントの「思い」をデザインに起こし続けた修行時代

私は大学時代、オーストラリアで舞台美術を学びました。帰国後、映画やテレビなど映像製作の世界で仕事を始めたものの、理想とのギャップに悩まされ、いずれも3カ月ともたず退職。そもそも自分はエンターテイメント業界に合わないのではないか…そんな風に思い始めた頃だったんです。そして、「どうせなら英語力を活かせるような仕事に就こう」と考え、辿り着いた先が展示会ブースのデザイン・施工を手掛ける会社。当初はデザイナーとしての入社を希望しましたが、語学力を買われ、営業として採用されることになりました。

仕事内容は主に、クライアントと打ち合わせをして、その内容をデザイナーに伝えること。そして上がってきたデザインをクライアントに評価してもらい、受注すること。しかし私自身、社内で上がってきたデザインを見て首を捻ることも多々あり、どうしても直接デザインに携わりたいという気持ちが膨れ上がっていきました。それを機に、入社1年後から営業とデザイナーの2足の草鞋を履くようになったのです。つまり、営業先でヒアリングした内容を私自身がデザインに起こし、そのままクライアントに提出するというフローになります。当然会社には内緒ですし、クライアントにも「架空のデザイナーAさんがデザインしたもの」という設定で営業を行っていました。するとまさか私がデザインしていると知らないクライアントからは辛辣な評価がどんどんと飛び出してきます。当然悔しい思いもしましたが、あの悔しさがあったからこそ、「クライアントが求めていること」を言葉の裏側まで深く追求し、さらにその思いを具現化する習慣がついたのではないでしょうか。そして入社して5年後、自分の理想とする「クライアントに寄り添ったデザイン」ができるようになったという自信も構築されていきました。それが空間デザインという分野で独立を決意した大きなきっかけになったのです。

自身の限界を超えてお客様に寄り添う

かつては映像分野での活躍を夢見た私ですが、エンターテイメントという業界においては映像でも空間でも人に感動を与えるというゴールに違いはありません。だからこそ、会社設立当初から「とにかく頂ける仕事に対して真摯によりよいデザインを提供したい」という思いが強くありましたし、その思いがここまで歩んでこれた原動力にもなってきました。デザイナーの仕事とは何か。私はクライアントの理想や思いを具現化することだと考えています。見るべきは自分ではなく相手の物差しであり、決して自分の好みを押し付けてはいけない。ですから、私はいかにクライアントに寄り添えるかということを最も大切にしてきました。

「トレンド」や「最新鋭のテクノロジー」といったスパイスを効かせて、デザインの魅力や感動を上積みすることもまた私達の仕事ではありますが、やはり原点はクライアントの思いであり、それをいかに引き出すかが肝要なのです。その上でコミュニケーション能力が必要なのは言わずもがなで、私が特に意識しているのは「格好をつけない」ということ。自分が身構えている限り、相手も心を閉ざしてしまうからです。あまり堅苦しい格好をしないのもそれが理由で、夏はTシャツに短パンですし、よほど仲の良いクライアントであればビーチサンダルで打合せをすることも多々あります(笑)。「え、なんでビーサンなの?」くらいのフランクな会話から始まった方がプロジェクトが円滑に進んだりするものですし、あえて身近な距離感を構築し、私自身が自然体でいるからこそ、クライアントの自然体を引き出し、本当にやりたいことが見えたりもする。そうやって私は常に、どうすればその地点に一早く到達し、クライアントの理想を具現化できるかを考え続けてきました。

マルチなデザイナーを育成したい

当社のスタッフはデザイナーとして入社した人間ばかりですが、クライアントに寄り添うためにはデザイン力だけでは到底やっていけません。ニーズを引き出すコミュニケーション能力、アイデアを魅力的に表現し、売り込むためのプレゼン力、そして「この人に任せたい」と思ってもらうための人間力、すべてを身につけてもらう必要があるでしょう。当然苦労も多いのですが、その分、他社ではできない経験も多く、非常に網羅的な視野を獲得できます。その点は、当社で働くデザイナーとして誇りと自信を持ってほしいと考えています。

また、デザイナーはとにかくストレスフリーじゃなければ新しいものをキャッチできませんから、社内の雰囲気も非常にアットホームです。経営する立場としては基本的に十人十色、「皆がやりたいようにやればいい」という思いで体制づくりを行ってきました。それがまた一つひとつのデザインの旨味になり、ひいては当社のブランドになっていくのですから。デザインは0から1を創り出す仕事ですし、特に空間デザインは映像とは違って360度肉眼で見られてしまうという誤魔化しの効かない難しさがあります。それでも「責任感を持ってこの仕事がしたい」という志を持つ人ならば、こちら側もしっかりサポートしてあげたいと考えています。

海外進出する上で日本人が知っておくべきこと

コロナをきっかけに海外との付き合いは減少傾向にありますが、有難いことに「日本で展示会を行う場合はぜひお願いしたい」といったお声掛けもあり、海外進出も視野に入れながら事業を展開してきました。海外での仕事といえば、印象的なエピソードが1つあります。約3年前、ハワイのホノルルマラソンに携わった案件でした。私が起こしたデザインを現地のスタッフに建ててもらったのですが、皆「君は”日本人”という感じがしなくて、非常に仕事がしやすい」と言うのです。どういうことかと聞くと「日本人に何かを尋ねると、上司に伺いを立てたり確認をしたり、とにかく決断が遅い。けれど君はすべての作業に対して即座に『OK』を出してくれる」とのことでした。私の場合、大学時代を海外で過ごした経験が吉と出たのかもしれませんが、このように海外と日本において仕事の進め方に違いがあることは皆が留意しておくべきだと感じた体験でもあります。カルチャーの異なる海外で仕事をスムーズに行おうと思うのであれば、日本流のやり方を脇に置いて、現地のやり方に合わせなければいけないこともあるでしょう。

一方、海外の方に日本で仕事をしてもらう場合には、こちらのやり方をレクチャーしてあげなければいけません。我を貫き通すのではなく、歩み寄りの精神を持つこと。今後海外との仕事がより身近になるであろう未来で、すべての日本人が心得ておくべきことではないでしょうか。

流れ続ける時代の中で今、与えられる感動を

その昔、テクノロジーの発展途上期には、ラジオから音が流れるだけで人々は深く感動しました。初めてテレビを観た人は、なぜ箱の中で人が動いているのかと驚いたことでしょう。そしてテクノロジーはますます発展を遂げ、いまやスマートフォンを触っても驚く人は誰一人いません。しかし今でも、ラジオから流れてくる音楽や、テレビで流れる映像に感動を覚える人はいるはずです。つまり、この時代に人々の心を動かすためには、今与えられているテクノロジーを使って、どのようなコンテンツを作っていくか。そこにフォーカスすべきなのだと思います。

「リオエンターテイメントデザイン」の「リオ」とはポルトガル語で「流れる」という意味を持ちます。時代は川と同様に絶え間なく流れ続けているのです。その流れの中で、今与えられる「感動」をデザインしていきたい、そんな思いを込めて名付けました。今後とも私達は、流れ続ける時代にマッチしたものを提供するために、一点モノの感動を生み出し続けるために、縦横無尽に進化し続けていきます。

株式会社リオエンターテイメントデザイン

代表取締役

オーストラリアのチャールズ・スタート大学にて舞台演出や映画製作にかかるさまざまな技術を学び、帰国後、映像業界へ。空間演出に憧れるようになり、展示会のブースデザイン・施工を手掛ける会社に入社。営業とデザイナーの両方を経験し、2012年に独立起業。