INTERVIEW

世界中を笑顔にする「食のテーマパーク」

三共食品株式会社

代表取締役 中村俊之

創業以来、あらゆる「食」に欠かせない天然調味料やエキス類の製造を続けている三共食品株式会社。代表取締役の中村俊之さんは、その豊富な素材を活かした加工食品業を新たに展開し、さらに誰もがワクワクするようなオフィス空間を実現。会社の歴史を重んじつつも新しい風を起こし続けている。「食」の魅力と可能性を信じる代表が目指す先とは、そして遊び心を大切にする理由とは。話を伺った。

数百種類もの素材で「食」を支える立役者

当社は「調味料事業」と「外食事業」、大きく分けて2つの事業を行っています。「調味料事業」は、食品科学系の技術者だった先代が始めた祖業です。食品メーカー向けに、うまみ成分の素となるエキス類やペースト、オイルフレーバー等の天然調味料を1次原料から製造しています。皆さんがスーパーで目にする加工食品類には何らかの形で当社の商品が使われていることが多いです。「外食事業」は、新たな事業展開を行うべく、私が立ち上げたものです。こちらでは外食や中食、給食業界に向けて、当社の調味料の素材を活かしたソースやドレッシング、レトルト商品など、調味料よりもさらに加工度の高い商品を製造しています。

当社の強みは、ありとあらゆる原料を取り扱っていることです。その数は数百種類にもわたります。結果、お客様から求められた味付けはもちろん、他社にはないオリジナリティのある味付けも提案できますし、1次原料から調味料、調味料からまた別の加工食品へと、さまざまな商品展開が可能となっています。会社としては1975年からずっと食品製造業を営んでいますが、積み重ねてきたノウハウに胡坐を掻くことなく、常にお客様や仕入先様からの声を商品作りに反映させて今日に至っています。

何もかもゼロから始まった新規事業立ち上げ

大学卒業後、他の食品卸会社を経て1996年に当社へ参加したのですが、大きな転機となったのは、やはり「外食事業」の立ち上げです。最初は商品も取引先もゼロの状況で、ただただ素材の原材料を持って豊橋の飲食店や食品メーカーを回る日々を過ごしました。ときには「そんなことも知らないの」と呆れられたり、一蹴されたりすることもありましたが、不思議と辛くはなかったですね。もともと人とコミュニケーションを取ることが好きでしたし、「食」の仕事に関われているというやりがいがあったからでしょうか。ゼロからのスタートだったからこそ、日々自分の成長が感じられるという喜びもありました。当時は「人が3年かかることなら、自分は1年でやる」という意気込みで、朝早くから夜遅くまで動き続けていましたが、それも「楽しい」と思えていたからこそできたことなのだと思います。

光が見え始めたのは、地道な営業活動を経てだんだんと横の繋がりが生まれた頃です。同業他社さんから「あそこのお客さんは三共さんに合うと思う」とアドバイスを頂いたり、お取引先からは「おたくの商品面白いから、展示会に出てみない?」とご提案を頂いたり。繋がりが増えるにしたがって販路は広がり、さらに大手のお取引先に商品が採用されたことで弾みがついて、いろいろなお客様とのご縁が増えていきました。ゼロから立ち上げた事業ながら、良いお客様に恵まれてしっかりと実績を出すことができた。その点が先代からも評価されたのでしょう、ちょうど後継問題を検討するタイミングとも重なり、2015年に代表取締役を拝命しました。

「風通しの良い職場」を実現した社風変革

トップの立場になった私が真っ先に考えたこと、それは「以前と同じことを続けていては、会社の成長はない」ということでした。先代の時代は「上から言われたことをやる」トップダウンの環境でしたが、会社の規模感が大きくなった今、組織に必要なのは、「自分の頭で考えて動く」という社員達の姿勢です。そんな風土を根付かせるためにどうしたらいいかと考えた末に行ったのが、皆がオープンに話し合えるような風通しの良い職場作りでした。まずは本社と工場のリノベーションを行い、内装を大幅に変更。社長室も皆と同じフロアに構え、すぐにコミュニケーションを取れるようにしました。社員食堂にはソファやハンモック等を取り入れ、カフェのようにリラックスできる空間へ。また仕事時の服装も、スーツや制服を撤廃してTシャツにジーパン、スニーカーをメインとしたオフィスカジュアルへと変更し、とにかく「会社」という堅苦しさを感じさせないよう意識しました。風通しの良い職場とはすなわち、社員達が縮こまらずにのびのびと働ける環境だと考えたためです。

大幅な社風改革に、社員の皆も最初は戸惑ったようですが、少しずつ馴染んでいき、徐々にいろんな会話が飛び交う会社へと変わっていきました。結果「自分の仕事をよくするためにはどうすればいいか」と主体的に考え、声を上げられる社員が本当に増えたと感じます。当社が日々、莫大な数の原料から多種多様な商品を製造・管理できているのも、あらゆる部署の人間がモチベーションを高く保ちながら自身の業務と向き合ってくれているからです。最近では入社希望者の方から「社風が魅力的で、入りたいと思いました」と言って頂くことも多く、あのとき決断して良かったと思っています。

「食」+「遊び心」=笑顔

社風は大幅に変わったものの、もちろん創業以来変わっていないものもあります。その最たるものが「食のテーマパーク」という当社のコンセプトです。テーマパークといえば、人を楽しませたり、ワクワクさせられる場所のこと。当社も、従業員や商品、サービス、お取引先、お客様など、あらゆるピースが重なることで「三共食品」というテーマパークでありたいと考えています。その上で企業理念である「食べる"わくわく"を世界中に」を実現していきたい。当社の根幹にあるこれらの想いに関しては、昔も今も、そしてこの先も変わりません。

食品業界に身を置く限り、徹底した製造・衛生管理は最重要ですが、私達は人を楽しませられる遊び心も大切だと考えています。たとえば当社で手がけているような業務用の商品は、通常、パッケージが非常にシンプルで、最低限の情報が掲載されたラベルのみという形が主流になっています。しかしそれでは当社の明るい雰囲気が伝わらず、テーマパークを志す会社の商品としてなんとも寂しい気がすると感じました。そこで現在は、パッケージにコミカルなキャラクターのイラストをつけたり、ロゴをポップなものにしたり、はたまた商品名をクスッと笑えるようなネーミングにしたりと、一目見ただけでお客様が明るい気分になれるものを心掛けています。これは当社の取り組みのほんの一例ではありますが、「商品1つとっても人を楽しませるものであるように」、そんな小さな意識から食の”わくわく”は伝わっていくものと信じています。

地元・豊橋から世界へ、「食」を通じてできること

当社はこの愛知家豊橋市で創業し、49年の歴史をこの地で積み重ねてきました。おかげさまで今では全国のお客様とお取引をさせて頂いていますが、引き続き地域に貢献できるよう、豊橋を盛り上げる活動を継続していきたいと考えています。昨今取り組んでいるのは、SDGsの目標達成を兼ねた月1回のビーチクリーンや食品ロスの削減、地産地消、野菜の端材を活用した商品作りなどです。年に1度は、地元小学校にて食育授業も行っています。地産の素材を盛り込んだ当社の商品『豊橋チキンカレー』を取り上げ、豊橋でどういった食材がどれくらい収穫できるのか、クイズ等を盛り込みながら「食」と「地元・豊橋」を身近に感じてもらおうという試みです。

今後は引き続き国内の販路拡大を目指すと共に、海外のマーケットにもより目を向けていきたいと考えています。日頃から海外商品を輸入する際は、現地にも足を運んで五感で感じるということを大切にしているのですが、そうするといろんなアイディアが広がる上に、日本の食が受け入れられる場所が世界にはまだまだ多くあると実感します。昨年、シンガポールの展示会に出展した際も、当社の商品が大変好評を頂き、実際にご購入くださったお客様もいらっしゃいました。このような形で地元・豊橋から日本、そして世界へとたくさんの人の笑顔を増やしていければ、「食べる”わくわく”を世界中に」という理念が真に実現されるのではないかと思います。

「食」の魅力を伝えるために、「食品会社」の枠を超えていく

当社はまもなく設立50周年を迎えます。50年続く会社というのは、日本でいえば1%を切るぐらい、ごくわずかな数しかありません。そう考えると、お取引先やお客様、従業員、当社に関わってくださるすべての方々に一層感謝の気持ちが込み上げます。今後さらに会社規模が拡大しても、皆さんがいなければ三共食品は成り立たないという事実を常に忘れることなく、各所とWin-Winの関係を保ちながら、皆で幸せになっていきたい所存です。

また、食べることの”わくわく”をよりよく伝えていくためにも、私達が先陣を切り、引き続き面白いチャレンジを積極的に行っていきます。「えっ、食品会社なの?」と周囲から驚かれるくらい業界の殻を破ることができたら、底知れない「食」の魅力が、さらに多くの方に届くことでしょう。

三共食品株式会社

代表取締役

大学卒業後、食品卸会社での勤務を経て、1996年に三共食品株式会社へ入社。アンテナショップ型レストランの運営を担当した後、取引先ゼロ・商品ゼロの状態から「外食事業」の立ち上げを担い、実績を上げる。2015年に代表取締役に就任。