INTERVIEW

モノづくりとヒトづくりで、目指す先へ

株式会社トノックス

常務取締役 殿内崇生

警察車両や消防車をはじめとする「特殊架装車」の設計・開発・製造を手掛ける株式会社トノックス。同社は創業当初から70年以上に渡り平塚・横浜の地に根ざし、車両製造を手掛けてきた歴史ある企業だ。一台のみのオーダーメイド特殊架装車から、1000台以上の乗用車生産まで対応する中、大切にしてきたのは「モノづくりという名のヒトづくり」。そう語る代表の殿内氏に話を伺った。

技術力を活かした”オーダーメイド“な特装車

株式会社トノックスは、警察車両や消防車、道路維作業車、医療系車両をはじめとする「特殊架装車」の設計・開発・製造を手掛けています。特装車を手がける企業様は全国に数百社あるのですが、当社の特徴は軽乗用車から大型車まで幅広い車を扱っていること。そして職人の技術を活かした小ロット生産も行っている点です。一般的に架装車メーカーは大きく二つに分けることができ、乗用車用に大量生産をする会社と、消防車やトラック等の大型車両のフルオーダーを手がける会社とに分かれます。弊社のように1台もののオーダーメイドから複数生産まで幅広く対応しているという点は、全国的にもユニークな存在と言えるのではないでしょうか。

弊社は1950年に創業し、70年以上の歴史を積み重ねてきました。大手自動車メーカー勤務の祖父が独立し、設立した会社でもあります。当初は自動車メーカーの下請け会社として日産の初代「シルビア」や「フェアレディ」の製造を手掛けておりましたが、その後、時を経て特装車の製造も行うようになっていきました。製造工程では多種多様な形式の特装車を職人が一つひとつ手作業で加工し、車両を生産していきます。“お客様一人ひとりのために“をモットーに、モノづくりに励んできました。

モノづくりはヒトづくり

これまで弊社は、機械の力だけでなく、多くのヒトの力に頼ってきました。だからこそモノづくりはヒトづくり、ヒトづくりはモノづくりだと私は思うのです。創業当初より大切にしてきたこのアイデンティティは、私たちの代、そして未来の代にも受け継いでいきたい考えでもあります。実際にモノづくりの現場では、作り手が生み出したモノに込められた”何か“が、必ずそのモノを通して、受け取り手に伝わると思っています。たとえば、同じレシピで料理を作っても、作る人によって絶妙に味が違ったり、美味しく感じたり、美味しく感じなかったり。一つとして全く同じものは生まれないでしょう。だからこそヒトの力を信じ、ヒトづくりを大切にしていくことが、お客様にもご満足いただけるモノづくりに繋がっていくと感じています。

最近はファブレス化と言われるように、自社に生産工場を持たなかったり、協力会社や他社で製造した部品を組み合わせたりと、製造工程を簡略化する企業が増えてきました。しかし私たちは、あえてその波に乗るのではなく、引き続き内製化に力を入れ、自社の強みである技術力を活かしたモノづくりを続けていきたいと考えています。

内製化にこだわり、ヒトの技術力を育てる

これまで社内で製品を生み出し続けることによって、長期的目線で見ると“経営と技術力の安定”にも繋がってきました。自社製造をせずに社外の技術力に頼りすぎると、自社からモノづくりの技術が消失してしまう恐れもあるでしょう。そして技術を継承するためにも、若手の技術者には「まずは挑戦させること」を大切にしてきました。架装車の製造はいくつかの工程に分かれており、分業で成り立っている部分もありますので、適材適所を見極め一人ひとりが活躍できる場を作っていきたいと考えています。

近年は車両の量産が減り、多品種で少数の製造依頼が増加しました。以前はロボットを活用して量産していたものも数多く存在していたのですが、職人の手作業で一台一台対応する必要性がより高まってきたと感じています。

グローバル視点とローカル視点を掛け合わせて

今後は、これまで培ってきた製造ノウハウに加え、よりグローバルな視点を持ってEV車や自動運転車などのモビリティ分野にも注力し、平塚を始めとする全国のまちづくりにも貢献していきたいと考えています。グローバルとローカルは対比軸で考えられる傾向にありますが、グローバルで行われていることは、いずれローカルで行われるものでもあるからです。2024年の1月には、アメリカのラスベガスで開催される世界最大のテクノロジーイベント「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」に参加しました。近年のCESでは、車産業のテクノロジーの進化に大きな注目が集まっています。「車といえば日本」という印象を持たれている方も多いかと思いますが、以外にも日本の出展企業は少なく、同じアジアでは韓国や中国企業の台頭が目立ちました。また世界の先進国と比較すると、日本はEV車や自動運転の技術で後れを取っているという事実は否めません。

しかし、これまで日本人が培ってきたモノづくりのアイデンティティと技術力には、まだまだ大きな可能性があると私は信じています。世界と日本のモノづくり力において、良い面や成長できる面を上手に掛け合わせることで、より良いモノを生み出せる力になっていくのではないでしょうか。そして世界の企業から学ぶべきことを学び、それらを自社へ落とし込み、トノックス流モノづくりを通して日本や平塚というローカルな地に貢献できる企業を目指していきたいと思っています。

モビリティを通してまちに貢献を

先にも述べた通り、企業として地域により貢献していくためには、よりモビリティ分野に注力する必要があると感じています。モビリティとは自動車だけでなく、自転車や歩いて移動することも指します。これまで弊社は特装車製造を通じた地域貢献を行ってきましたが、新しい移動手段のカタチが生まれてきている昨今、それらを利用する一般の方々にも何かしらの手段で貢献できることはないかと模索を続けてきました。

今から20年先の未来では、人の移動手段、車の世界も大きく変わっていることでしょう。未だ普及していないEV車や自動運転車が主流になっているかもしれません。つまり移動手段が変わるということは、まちのデザインそのものが大きく変わるということでもあります。もし自動運転というモビリティが社会の主流になるとすれば、そのまち全体のあり方も大きく変わるきっかけになるでしょう。そうなったときに、単に「車」という観点だけではなく、より広い視点を持った経営が必要になっていくのではないでしょうか。まだ先のことかもしれませんが、未来のまちのあり方を見据えながら技術を磨き、ノウハウを集積し、そしてどう活かすかまでを描いていくことは私の重要な役目の一つだと考えています。

変化を見据え、走り続ける企業へ

これからは共存の時代です。私たち1社だけで何かを完結するのではなく、他企業様と協力することで生み出せるものも数多くあるでしょう。だからこそ、70年の歳月をかけて培ってきた弊社の技術力を活かし、それらを必要としてくださる企業様と手と手を取り合っていく取り組みは非常に大切なこと。そうした多様な在り方が自動車産業を盛り上げていく一助になっていくと信じています。

かつての日本のモノづくり力と比較すると、今の日本のモノづくりは「発展しきった」と感じられている方も少なくないでしょう。しかし、どんな状況、どんな時代においても、絶対にモノづくりが世の中からなくなることはありません。AIやIoTなどの技術革新との組み合わせにより、この先新たな可能性も見いだせる分野なのです。日本の未来を担う若い方々も、ぜひ大きな期待を胸に抱き、モノづくり業界に飛び込んでみてほしい。私たちトノックスも、これからの時代に必要とされる技術力や、企業としての在り方を見極め、地域に根ざしながら世界に引けを取らない企業へと邁進していきます。共に成長していきましょう。

株式会社トノックス

常務取締役

2001年 、株式会社大昌電子入社。2006年より河西工業株式会社を経て、2007年に株式会社トノックス ヤナセテック株式会社に入社。現在は株式会社トノックス常務取締役、ヤナセテック株式会社代表取締役社長を務める。