INTERVIEW

地方創生×AIで“移動”を豊かに

株式会社YAY

代表取締役 薬師寺悠木

システム開発とコンサルティングを軸に事業を展開する株式会社YAY。東京と長野の二拠点を往復しながらの生活を10年続けているという代表取締役の薬師寺悠木さんは、地方では無くてはならない移動手段であるクルマで体験する新たなコンパニオン・サービスを展開する株式会社Bashowの取締役に就任。YAYとBashowで仕掛ける地方創生×AIのアイデアを語ってもらった。

クルマでの移動を価値のあるものに

株式会社YAYは、システム開発のコンサルティングを主軸にAIの活用やDX推進をサポートする事業を展開しています。特徴を挙げるとするなら、社員がいない私1人の会社であること。パートナーとなる個人事業主や企業の方とプロジェクトごとにチームを組んでいくのが特徴です。お客さまのニーズにあわせて利益を追求する形を、と考えた結果、案件ごとのチーム制が理にかなっているのではないかと、このスタイルになりました。

4月からは、弊社がAIサービスの開発・運営をリードマネージする形で、私が取締役に就任した株式会社Bashowにて、新たなサービスを立ち上げることになりました。それは、クルマでの移動体験、移動文化を豊かで価値のあるものにするコンパニオン・サービスです。

二拠点生活の一つ、長野に役立つサービスを

新たなサービスについて、背景からお話させていただくと弊社は8期目を迎えたところであり、私自身は10年前から東京と長野の二拠点を往復する日々を送っています。長野では農業に携わっていますが、地域の方々と接する機会が多く、さまざまなことを教えていただいたなかで、長野に恩返ししたい、役に立ちたいという想いが強くなり、何かできないかとここ数年ずっと考えていました。何か役立つサービスを考える中で、株式会社Bashowの代表である程塚正史との出会いがありました。この出会いは私にとっては全く違う角度から解決策を生み出すための契機だったと思っています。

私自身、これまでクルマは移動手段。ただそれだけのものでクルマを活用することで役に立てることがある、という考えは全くありませんでした。ですが、程塚との出会いで移動することの楽しみや喜び、移動するなかで豊かさといったものを醸成することができるのではないか、と考えるようになりました。地方では東京よりもクルマを使うことが多く、移動手段という想いはより強い。そんななかで、クルマに乗ることが楽しみの一つ、と変えることができれば、どこか役に立てるのではないかと感じたこともありました。

AI活用の情報サービスでモビリティ業界の構造を変える

今まで無駄なものと捉えられていた移動時間をデジタルコンテンツによって、価値ある時間に変える。Bashowでは、そのアイデアを形にした情報アプリサービスをリリースします。例えば、観光に来るとその土地のものをいろいろ調べたりしますが、地元にいるとどうしてもいつもの風景になりがちですよね。地元の景色は変わらないけど、そこに情報が増えれば移動を楽しめるんじゃないかなと。とある通りを通過するときにAIアプリが近くにあるお店やちょっとした歴史を教えてくれる。情報を調べて探すのではなく、動いていれば情報が自然と入ってくる。それが話し相手になってくれたり、乗る度に違う内容を伝えてくれる。目的地に対しても新たなアプローチになるのではないでしょうか。

移動することに新たな価値がついてくるので、クルマに乗ることが目的になるかもしれない。それはまた別の意味で面白いのかなと思っています。このサービスをローンチするためには、自動車メーカーやカーナビなどのメーカーを連携する必要があり、コンテンツ開発の一方でそういった自動車業界との連携。将来的には業界の構造を変えていきたいと考えています。スマホのアプリケーションと連動するだけでなく、カーナビや車載システムに標準的に組み込んでもらいたい。将来的には、それがクルマやモビリティという価値の底上げにつながっていくのではないかと。まずは、自治体などと連携しながらの実証実験などから、よりよいものにしていきたいと考えています。

日本から世界へ。グローバルなサービスに

2024年8月以降、サービスの実証実験に入る予定です。アプリで届ける情報に関しては、インターネット上の情報や書籍だけでなく、生の声を入れていきたいと考えているので、地域の方の協力が不可欠です。実際に使っていただき、それが本当に有益な新しい情報として提供できるのか。そして、それを使い続けていく状態を協力しながら一緒に作っていく土壌をまずは作っていきたいと思っています。ローカルで仕事をするために根付いていくことは大切なことですから、いずれは中国やアメリカなど世界に広げていきたいなと考えています。近年は海外からの観光客も増えていますので、そういったところでの多言語化も視野に入れています。レンタカーにアプリを入れてもらったり、成田空港や新幹線でも使えるようにしたり。海外から日本に来た方が利用することで、目に見えない日本の良さに気付いてもらえたら、という想いも持っています。

将来的に世界へと広げることを前提にしながらのサービスですから、当然そのためにはグローバルスタンダードな形での開発を行っていく必要があると感じていますが、自治体の方や利用してくれるであろう地元の方とのコミュニケーションを忘れずに進めていきたいとも考えています。一般的に開発というと、ものづくりがスタートするというイメージですが、そのなかには人に会うことはもちろん、その作っているものが今後どう活きていくのか。そのイメージがないといけないのかなと。多くの人に利用していただけるサービスを生み出し、世の中のスタンダードを変えていきたいですね。

覚悟をすり合わせることでチームに

4月に立ち上げたばかりの株式会社Bashowですが、自動車業界に詳しい程塚と全くの門外漢の私。畑の違う2人がどうすり合わせて形にしていくか。そこが第一の課題でした。何よりも覚悟をすり合わせること。最初から自分で進んでやりたいと思っている人と支援するという立場でいると距離が生じます。弊社YAYがAIのサービスを開発し、運営をBashowで担うといったスタイルにすることで距離をなくしました。距離がなくなると互いの立場を尊重し合いながら、同じ目線で会話ができるようになりました。

やはり形にするには、その仕事に真剣に向き合うことが大事ではないでしょうか。ただ誤解されやすいのは、働き時間とか頑張ったという言葉が表に出るのではダメだということ。それよりは本気で打ち込んで、チームを組むときはそこに集中して形にする。それが起業においては一番大事なことだと考えています。

多様性を受け入れる柔軟性を持つ

常に念頭にあるのは、多様性を受け入れる柔軟性を持つこと。パートナーとして一緒にプロジェクトを作る人にしても、仕事のために生きているわけではありませんから。それぞれに生活も家族もある。弊社の場合は働く場所も皆さん違うし、当然同じようにプロジェクトに向き合っていても日が暮れる時間も違う。もちろん起きる時間も違うし、仕事のうえで必要となる経験も知識も得意分野も違うでしょう。そのなかで共通のゴールに向かって、新たなサービスを世に出していくためには、異なる背景を持つ人々と協力し、目先の利益だけでなくグローバルな視野で利益を考える必要が求められると考えています。

そう思うようになったのは、社会人4年目で転職した会社でさまざまな国をルーツに持つ人々と一緒に働いたことがきっかけです。ベトナム、フィリピン、中国、韓国などさまざまな人がいましたが、共通言語で同じことを伝えても理解度が全く違う。それは能力が劣っているから、ではなく文化が違うからなんですね。それを理解し、歩みよることが仕事では大切なこと。同じゴールを目指すチームですから、そこで多種多様な能力を活かしてほしい。多種多様な能力を組み合わせてお客さまの利益に貢献することが弊社の理念ですし、それを最大限発揮するための場を作るのが自分の役割だと考えています。

株式会社YAY

代表取締役

株式会社YAYを2017年2月に設立。プロジェクトマネジメントを学士課程にて学び、コンサルファームにてシステム開発、AI、コンサルティング、データマネジメントなどさまざまなプロジェクトに参画。東京と長野の二拠点生活から始まり、今では東京と長野にオフィスを持つ。2024年4月に株式会社Bashowの取締役に就任。