INTERVIEW

ナイトワーク業界の古い慣習を打ち破る。

株式会社ZENNO GROUP

代表取締役 鉢嶺祐矢

ナイトワーク業界の中でも一線を画すイメージが強い銀座のクラブ。株式会社ZENNO GROUPの代表取締役、鉢嶺祐矢さんはそんな銀座の高級クラブに14年間在籍した経歴を持ち、現在は業界向けのさまざまなサービスを提供している。高みを目指して駆け抜けた黒服時代から、非効率な業務体系を改善すべく立ち上がった創業エピソードまで、その挑戦の数々を語ってもらった。

夜の銀座を知り尽くしたからこそ実現したサービス

当社ではナイトワークに関連した事業を複数展開しており、内容はマッチング型求人アプリや人材紹介サービス、Webメディア「銀座ナイトコム」・銀座カラオケバー「BeeBee」の運営と多岐にわたります。なかでもPOSレジアプリ「ZENNO Regi」は、当社の事業の第一歩となったもの。自動会計機能に顧客管理システム、人材管理システムなどを搭載した業務効率化ITツールで、ナイトワーク業界の常識を覆す画期的な仕様になっています。私が黒服として勤めた時代があったからこそ製品化できたものと言えるでしょう。

私が銀座デビューしたのは18歳のときです。10代の頃に「やりたいことをやりながら生きていく」と決意し、芸能関係の専門学校へ進学することを志したのですが、母子家庭で決して裕福とは言えない環境から高校卒業後はすぐに自立をする必要がありました。そこで門を叩いたのが銀座の高級クラブだったのです。自らに接客業の適正があることはなんとなくわかっていましたし、何より高収入が魅力的でした。そして働き始めてまもなく「この街で本気で勝負してみよう」という野心が湧き起こったのです。

地道な努力と多角的な視野の重要性

最初は苦労も多くありました。富裕層のお客様ほど一癖ある方が多いですし、キャリアが長いだけで威張っている先輩もいます。当時、黒服が最も力を試されたのがスカウトなのですが、下っ端の黒服はそのスカウトすらさせてもらえません。そこで私は誰よりも早く出勤して店の掃除、セッティング等を済ませ、誰にも文句を言わせない状況を作り上げてからスカウトへ出る時間を捻出していました。さらに「この人だ」と思う女性には4~5年かけてコンタクトを取り続けたり、直筆の手紙を渡したりと、人一倍粘る姿勢も忘れませんでした。すると偉そうにしていた先輩から一目置かれ始め、オーナーからも高く評価されるように。逆境を乗り越えたあの快感は忘れられません。当時から私は「決して休まない」「1つのポジションだけでなく、網羅的に仕事をできるようになる」という点を心がけていましたが、これらの重要性は経営する立場になった今にも通じていますね。

起業について考え始めたのは20代半ばの頃です。元・黒服で独立というと、夜の街に飲食店を出すことがある種の定例でしたが、私は「それでは面白くない。自分ならもっと違うことができる」と思っていました。そこで頭を絞って考えついたのが、冒頭で述べた業務効率化ITツール「ZENNO Regi」だったのです。

ナイトワーク業界のアナログな環境を変えたい

銀座のクラブに限らず、ナイトワーク業界はとにかくイレギュラーなことが多く、システムで一元化できない部分が多々あります。たとえば会計はいまだに手書き伝票で行っているお店が多いのですが、これはなぜかと言えば、銀座では一般的なお店の会計とは異なり、お客様やTPOによって基本設定からすこし安くする・高くするという微調整が日常茶飯事だからです。またサービス面も、オーダーメイドの接客ができてこそ一流店。お客様のお酒の飲み方やタバコの銘柄を頭に叩き込むことはもちろん、お客様が飲みたいとおっしゃるお酒が店になければ、すぐに外へ調達しにいってお出しするような、イレギュラー対応を徹底して行う必要があります。

裏を返せば、このような業態だからこそ、ナイトワーク業界は長らく「業務効率化」とは縁遠い世界だったと言えるでしょう。しかし私は、教育してもすぐに辞めてしまうような人の入れ替わりが激しい現場でサービスのクオリティを一定に保つためには、やはりある程度のシステム化が必要だと考えていました。そこで思いついたのが、POS機能と情報を一元管理できるシステムだったのです。銀座クラブの現場を知り尽くした自分なら、ナイトワーク業界に特有のイレギュラーな部分にも対応した真に便利なシステムが作れると確信していました。その後、黒服として業務をこなしながらコツコツと作り上げたシステムこそが、現在のPOSレジアプリ「ZENNO Regi」の原型です。今では『とても便利』『生産性が非常に上がった』と軒並みご好評の声を頂いています。

業績が軌道に乗ったきっかけ

2021年に銀座のクラブ業界を引退し、本格的に事業をスタートさせました。しかし起業をしてから2年半は業績も伸びず、ただただ資産が目減りしていくのを眺めるばかり。「このままではまずい。どうしようか」。悩んだ末に、”銀座だけどふらっと立ち寄れる”カラオケバーを銀座に出店しました。すると不思議なことに、その実店舗を軸として再び銀座の業界の方々や、さまざまなお客様と接点を持てるように。それだけでなく、バーのお客様がのちのち取引先になったり、人材紹介でお会いした方がバーのお客様になったりと、私のすべての事業間で相互作用が働くようになっていったのです。現在もこの好循環は続いており、いまや当社の強みともなっています。

安定して経営ができるようになった今も気をつけていること、それは強欲にならないということです。たとえばカラオケバーにて、お客様を気持ちよく酔わせて会計を積み上げることはそう難しいことではありません。しかしそうすれば必ず、早い段階でお客様との距離は遠のいていくでしょう。だからこそ目先の利益に捉われず、「お客様、今日はこのくらいにしておきませんか?」と言える心を常に持つようにしています。これは人材紹介事業でも同じことです。同業他社は成功報酬の高い店舗を紹介する傾向にありますが、当社のモットーは「求職者にベストな店舗を紹介する」。そのためなら報酬の有無はいといません。すべてはお客様やクライアントにご信頼頂き、長いお付き合いができるようにと願うがゆえのことです。

50年計画のビジョン

孫正義氏に感化され、私も20代半ばのときに次のような「50年計画」を作りました。「20代は名をあげる、30代は一勝負する、40代は拡大させる、50代は完成させる、60代は継承する」。私は現在35歳ですが、20代は銀座のクラブ業界でひとかどの人間になり、30代は一念発起して会社を興しました。よって、現状はこのビジョンの通りに来られていますし、今後ともこの流れに沿って目標を達成していけたらと思っています。ひとまず、40歳の区切りまでには年商10億を目指したい所存です。

そして人生の最終章で行いたいと思っているのが慈善事業です。死を迎えるときにその人の人生の価値が決まると考えているため、より多くの方に感謝されたいという思いが根底にあるのかもしれません。そう言うとエゴのようですが、実際に慈善事業をするには強さが不可欠です。強さとは何かといえば、「お金」「慈悲の心」「知識・知恵」の3つだと私は考えます。なぜなら被災した方を目の前にして、いくら「慈悲の心」があっても「お金」がなくては支援になりません。他方で、その日暮らしをするアフリカの貧困層に「お金」をいくら渡しても、自分自身で稼ぐための「知識・知恵」を授けなければそれは本当の支援とは言えないでしょう。したがって、本当に役立つ慈善事業をするためにも、その強さを獲得できるよう今から備えていきたいと思っています。

あらゆるチャレンジを通じてナイトワーク業界との共存共栄を

現状は既存事業の業績を伸ばすことに専念していますが、この先日本のみでビジネスを続けていくことには危惧の念を抱いています。よって、海外展開できる事業を新しく作っていくことは今後の課題の1つですね。現在アイデアとしてあるのは、インバウンド事業です。銀座のクラブはそもそも会員制で、なおかつ言語の問題もあってインバウンド対応ができていません。その点に着目し、まずは海外の方も来訪できるナイトクラブの新設から始めてみるのはどうかと検討中です。また当社は銀座のナイトワークと共存共栄の関係ですから、業界全体の人材をどのように獲得していくべきかという課題は常に念頭にあります。いわゆる銀座の高級クラブはおよそ80店舗ありますが、その中でも満足な数のスタッフやキャストが在籍し、さらに客入りが良いお店は半数もないでしょう。その厳しい実態から目をそらさず、業界共に発展・繁栄を目指していきたいと思います。

弊社の社名である「ZENNO」は、「全知全能」を語源とした造語です。私自身「何でもできる」「不可能はない」そのような理念を掲げて会社を経営しています。今後ともあらゆる挑戦に取り組み、その挑戦を成功させていく、そのような実業家であり続けたいものです。

株式会社ZENNO GROUP

代表取締役

18歳より銀座のクラブで働き始める。黒服として活躍しながら2020年、株式会社ZENNOを設立し、2021年に14年間身を置いた銀座のクラブ業界を引退。現場での豊富な経験を活かし、ナイトワーク関連事業を複数展開している。著書に『賢者らの月読記』がある。